HELLO MY LIFE
季節は満ちて欠ける月の如く廻りくるものと言うが、大陸間を移動し旅を
続ける彼らにとって、その存在はあやふやだった。
しかしこの日、自然現象というモノはこちらの事などお構い無しに来訪を告げる
ものだという事を、彼らは改めて思い知らされたのだった。
「まずいっ降って来たぞ! みんな走れ!」
目指した街へようやく辿り着いたと思ったとたん、太陽を覆い隠していた
黒い雲から大粒の雫がこぼれ出す。
夕立と呼ばれる現象だ。
真っ先に駆け出したクラースの声と同時に、皆数メートル先に見える
宿屋へと駆け出す。
「急に振ってくるなんてなぁ…ついてないぜ」
チェスターが濡れた服の事も気にせず矢筒の心配をしながらぼやく。 宿の中
に居るため温かいのは解るが、まず自分の体を心配するべきではないだろうか。
と、その時横から彼の頭めがけてタオルが飛んでくる。
「あーもう洋服がビッショビショ。風邪引いたらどうしてくれんのーっ」
宿屋の人から自分の分のタオルを受け取り服と髪を拭きながらアーチェも文句
を言う。 どうやら飛んできたタオルの出所は彼女のようだ。
「何すんだよっ! タオルくらいまともに渡せねーのかよ!」
「何よっ、投げられんのがイヤなら自分で宿の人から受け取ればいいでしょ!
矢の心配よりまず自分の心配しなさいよねぇ!」
ほんのキッカケから言い合いがはじまるが、これも彼らのスキンシップの一つ
なので当人同士に任せておくのが無難と言う物だろう。
そこに小さなくしゃみが聴こえてくる。
「っクシュンっ」
「ミントっ、はいっタオル」
口元を抑えて2・3度くしゃみを繰り返すミントに、慌ててクレスが持って
いたタオルを二枚とも渡す。 一枚は肩にかけ、もう一枚は頭の上から被せて
やる。
「大丈夫かい、ミント。 こんなにいきなり降って来るなんて……」
「この辺りは今の時期夕立が多いんだ。もっと火の近くにどうぞ」
心配そうに見つめるクレスに宿の人がもう一枚タオルを渡してくれる。 温か
な笑顔で迎えてくれる宿の人に好感が持てる。
「ありがとう」
自然とこみ上げてきた感謝の言葉に、急の雨さえ快く思えてくる。
「どういたしまして。 俺はこの宿の料理人でテリー。 本当なら接客係のヤツ
が来る筈なんだけど、この雨で今洗濯物取り込みに行っているんだ、うはははっ
ゴメンネ」
「食事係ってことは、アナタがご飯を作るってこと? 今日のご飯何? 何?」
遠くから話を聞いていたアーチェが会話に入ってくる。 暖炉のそばで暖まっ
ていたミントの肩越しに顔を出して瞳を輝かせている。 よほどお腹が空いて
いるのだろう……。
「今日は特性シチューハンバーグとポテトサラダ、それにデザートはフルーツ
パンチ!」
「わおっやったー♪」
夕食の内容を知りアーチェは両手を上げて喜ぶ。 その時もう一人宿の人が
腕にシーツなどを抱えながらやってきた。
「あっタックっ! お客様だよ。 5名様。 お部屋にご案内してっ」
「え? お客様? この雨の中? それはそれは、お待たせしました。 どうぞ、
お部屋へご案内いたします」
そう言ってかなり長身の男がこれまた絶え間ない笑顔で案内してくれる。
シーツをテリーに押し付けて……。
「こちらの部屋を三名様、こちらを二名様で。なにかありましたら、下の
フロントに誰か必ず宿の者がおりますので、些細な事でもお申し付けください」
そう言ってタックは去っていった。
「はぁー、大きな人だったなぁ。 クラースさんより大きかったですよ」
部屋に入るとクレスが良くわからない歓心をしはじめる。
「まぁ、世の中には私より背の高い者などいくらでもいるだろうが、確かに彼は
規格外に大きいなぁ……」
「何食ったらあんだけ大きくなれんだろうな? やっぱ家系か?」
よほど彼の身長が飛びぬけていたためかクラースやチェスターまでもがその
話題で盛り上がり始める。
外の雨はやむ事を知らず、彼らが宿屋に着いた時よりもさらに強さを増して
いた。 遠くの空が光ったように見える。
ふと気がかりにな事があって、クレスは二人に告げた。
「クラースさん、チェスター、僕ちょっと隣りに行って来ます」
「隣りじゃなくて、ミントのところへだろう?」
「クックラースさん!」
コンコンっ
雨音以外何一つ聴こえない廊下に、ドアをノックする音が響き渡る。
「ミント居るかい? 入ってもいいかな?」
「クレスさん? はい、どうぞ」
了解を得てクレスはドアを開ける。 と、その瞬間。
「わ!」
「うわぁー!」
クレスがドアを開けると、待ち構えていたアーチェが横から顔を出す。
予想通りにクレスが驚いてくれたのが嬉しかったのかお腹を抱えて大笑いして
いる。
「あはははははっ、びっくりしたぁ?」
「びっくりするさ! いきなりなんだよ」
「いいからいいから。 お邪魔虫は消えてあげるからさ♪ うしししししっ」
などと言いながらアーチェは扉を自ら閉めて出て行った。 室内にはミントと
クレス、二人だけが残される。
暫く無言の時が流れたが、その空気を打ち破ったのは以外にもミントの方
だった。
「クレスさん、どうなさったんですか? 何か御用でも?」
「いやっ、ただ…さっきくしゃみしていたみたいだったし、ここん所体調悪そう
だったから心配でさ、どうかな〜って」
クレスはやけに早口でまくし立てる。 この状況に焦っているのか2人とも
互いの動揺を隠せない。 クラースが覗き見をしていたら 「若いっていいねぇ」
などと言ったかもしれない。
「ありがとうございます。 暖炉と、クレスさんが掛けて下さったタオルのおか
げで、大分身体も温まってきました」
穏やかな春花のような笑顔でミントが応える。 彼女の肩には未だにあの
タオルが一枚かかっていた。 もう一枚は水をふき取ったため先ほどのタック
に渡してしまったようだ。
クレスはその言葉を聞いてようやく安堵したように息をはいた。
「そっか……よかった」
その時、どこからともなく「ドンドドド」という音がした。 明らかに外から
とわかるそれに、慣れない彼らは一瞬太鼓の音かと錯覚する。
「何の音だろう? こんな日にお祭りでもやるのかな?」
つぶやくクレスの声にミントが身体を強張らせる。 もしや? という不安が
彼女の脳裏をよぎる。
「もしかして、これは……」
「え?」
呟いたミントの声に返事を返したその瞬間、全ての音を掻き消すような爆音
が天から地へと駆け抜けた。
ゴロゴロゴロゴロ!!
「キャア!」
「わっ! ミっミミミミっミント!」
クレスがどもっているのは何も今の音に驚いたためではない。 その音に
驚いたミントが抱きついてきたので、焦りを隠せないのだ。 急の事で対処
できず、立っていた床に座り込む。 震えるミントの肩を抱いて安心させる
ように声をかけながらベッドに座る。
「大丈夫だよ。 大丈夫だよミント。 恐い物なんて何も無い」
優しく抱き寄せつぶやくように繰り返す。
穏やかで強い声。 ここに居るよと安心させてくれるのと同時に、大丈夫だよ
と守ってくれる優しさが見える。
ミントはだんだんと落ち着いていける自分に気付いていた。
「ありがとうございます。 どうしても、私雷って苦手で……。 いつもクレス
さんに助けられてばかりですね……私」
腕の中で震えながらも 「ありがとう」 を伝えようとしてくれた彼女が、
クレスにはとても強く見えた。 取り乱してしまうだけの状況の中でも他人を
思いやれる事。 それこそが彼女の強さだと、誰よりも知っているから。
そして誰よりもそれに助けられているから。
「いいんだよ、僕がミントに助けてもらった事を考えたら、これくらいじゃ
返しきれない」
この気持ちをどう伝えていいのか、上手く言葉がでてきてくれなくて、
もどかしくなる。
「こんな時くらい頼ってくれていいんだよ」
伝えたい気持ちはこんな物ではないのに。
「ミントの怖い物が僕は恐くない。 でも、もしかしたら僕の怖い物がミントは
恐くないかも知れないよね」
その言葉にミントがう埋めていた顔を上げる、目元が涙に濡れているのを
やさしく指でぬぐってやる。
「だったら、ミントが弱い時は僕が守ってあげる。 だから、僕が落ち込んだり
いじけたりした時は、ミントが僕を助けてくれるかな?」
その言葉は心を仄かに温かくしてくれて、ミントはただただ頷いた。
「はい」
小さく短い一言だったが、気持ちを伝えるには十分すぎるほどだ。 現に
クレスはその言葉を受けて、やわらかく微笑んだ。
遠く鳴り響く雷鳴は先ほどの一鳴りの後だんだんと遠のきはじめ、それと
共に黒く広がっていた雲も一転して青空を見せてきた。
世界の運命をかけた戦いの中、こんな小さな宿屋の部屋の中安らげる一時が
嬉しかった。
「あ! ミントっ、ほら窓の外を見てごらんよ!」
ふっと視線を外に巡らせたそのとき、窓の外に七色の空をよぎる橋がかかり
始めた。
「虹だよ!」
立ち上がり窓を開け身を乗り出す。 雨の去った街は雫に洗われ輝き、きた時
よりも美しく見せていた。 まだまだどこかで遠雷の轟きは聴こえるが、それは
もうミントにとって恐怖の対象ではなかった。
隣りに、彼が居る。
そのことが、ほんの少し彼女を強くさせた。
隣りの窓から他の三人も顔を出し虹を眺めている。
「すっごーい! 二重の虹だよっ、あたし初めて見たー」
「いやー綺麗なもんだな。 知っているか? どこかの国では虹は竜の変化した
姿だと言われているらしい」
クラースが学者である事を思い出すように公議をはじめる。 彼の幅広い
知識にいつも驚かされる。
「オスが虹 (コウ) でメスが (ゲイ) 。二匹は夫婦で、その二匹が天へ上る
と二本の虹を描くと言われている」
「相変わらずクラースのダンナは物知りだなー。 そんな話があったなんて俺
全然知らなかったぜ?」
「まあ、古の言い伝えだからな。 しかもこの話にはおまけがあるんだぞ」
やけに楽しげにクラースはクレス達に向かって言う。
「その二本の虹が空に上ったときに、共に見る事のできた恋人達は、何が合って
も変ること無い愛をはぐくめるんだとさっ!」
はじめは何を言われたのか分からず、理解した瞬間顔が赤くなるのを隠し
切れなかった。
「なっ! 何言ってるんですかクラースさん!!」
「おぉ? 顔真っ赤だぞクレス」
「うるさいぞチェスター!!」
楽しげな空気をまといながら時の流れに身を任す。
階下でテリーが食事だと呼んでいる。
彼の鳴らすフライパンとお玉のぶつかる音が軽快なリズムを刻んでいる。
ご近所に迷惑だろうとタックが慌てて止めに入っているが無駄と見える。
辛き旅路の中故に 心休まる一時に幸あれ
いついかなる時も 共にあらん
苦難も喜びも分かち合い 例え遠く離れても
断ち切る事の出来ない絆を胸に
只 前を見つめ
挑み歩む道は
同じ終着点に繋がっている
END
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あとがき
どうも、はじめまして。 黛 誓と申します。
すいません! 明々後日から中間テストという実は切羽詰った状況で書いた
ため、非常に御見苦しいものとなっております!
実際のところ自分が今更こんな純情なジャンルに足踏み入れる事になるとは
ヒトカケラも思っていませんでした。(汗)
だから久し振りに書いた男女のラヴラヴなお話に、とまどい気味です。
しかも純情すぎて動かすのが難しいキャラクターでした。
様々なオリジナル設定を織り交ぜてしまったため、ゲーム本編とは食い違う
点があるやもしれませんが、それもパロディということで、ご容赦ください。
話の大筋を曲げるような事はしていない筈ですので。
タックとテリーについては元ネタ解った方、是非お友達に! 実は他にも
トニーとジドを出そうと思っていたのですが、ページの都合で諦めました!(笑)
このタイトルも大好きな方々の曲からお借り致しました。本当に本当に
大好きです!!
黛、実は普段のジャンルでは絵描きなのですが、テイルズでは小説一本で
行こうと思っています。 私の分までのりちゃんが素敵なイラストを書いて
くださる事でしょう☆
ではでは最後に。
のりちゃんファンの方々、本当にごめんなさい。 お目汚しです! そして
こんな言い訳まで読んで下さってありがとうございます!
そしてのりちゃん。 呼んでくれてありがとう!! 貴方の挿絵が楽しみよ!!
またクレミントークしようね! 来年の企画は熱いぜ!
それでは、失礼いたします。
黛 誓 拝