|
「うーっ…さっびぃなぁ」 身を竦ませて、両手で自分の身体を抱きしめていた。言葉と全身で寒さを表現するロイド。 普段の赤い服の上にコートを羽織り、マフラーと手袋も当然のように装着。充分に厚着をしている筈なのだが、それでも寒さを訴える。 彼を見て、父親は溜め息を吐いた。それもやはり白く、寒さを実感する一因となる。 「そんなに寒いのなら、来なければいいだろう」 「だってさぁ。あんたひとりじゃ大変だろ」 クラトスの手の中には、一枚のメモがあった。 紙自体はそう大きいものでもなかったが、ぎっしりと書かれた文字は紙の大半を埋め尽くしている。 彼らの役目は、ここに書かれた物を買ってくること。 つまりは買出し係。否、『パシリ』と表現した方が心情的には適切か。 ことの起こりは昼頃だったか。 突然、ゼロスが提案をしたのだ。『忘年会をしよう』と。 そこにいたのがクラトスだけであれば当然却下されたであろうが――それ以前に提案すらされなかったであろう――、乗り気なロイドと仲間たちを見て、彼も表立った反論は出来なかった。 確かに戦い尽くめなのも大変だろうし、時には羽目を外さない程度に遊ぶのも悪くはない。 自分に言い聞かせて納得したのだが、その後の展開には着いて行けなかった。 世間一般ではそれが普通なのか? 最近仲間になったクラトスには通じない何かがあるのか? 理由はともかく、クラトスには信じられない程のスピードで準備が進められたことは確かだ。そして始まった忘年会は、夜遅くまで続いている。 ある程度は参加したものの、少々居心地の悪そうな顔をしていたクラトスに対し、足りなくなった物を買うようにと半ば強制的に命じたのはリフィル。 特に反論する理由もなかった為、即座に会場である宿屋を後にした。 が、玄関を出たところで、コレット達と話をしていた筈のロイドが追いかけて来たのだ。 「品数は多いが、持てない量ではないが?」 「…別に、いいだろっ」 それ以上に深い理由はないのか、反論の術を失ったらしいロイドは押し黙った。 ロイドを困らせたくはないし、正直着いてきて貰ったのは嬉しい。 もう突く必要はないだろうと思い、クラトスは自身も口を噤む。 少し前までは、想像だにしていなかったことだ。 こうやって『親子』として、街を歩くなどと。 「なあ、ちょっとそのメモ見てもいいか」 「構わない」 短く返事をして、ロイドの手にメモを渡した。 簡単に目を落とした息子は、少々驚いたような声を上げる。 「えーっ。アルコール多いなぁ…まだこんなに飲む気かよ」 「明日になって二日酔い、という状況にならなければいいがな」 「有り得そう」 クラトス自身は、付き合い程度にしか飲んでいない。 多少は身体が火照っていたが、外の冷たい風に晒されれば、頭もスッキリするというものだ。 それでも。 照れくさそうに告げた息子の言葉を耳にした時には、自分が酔っているのではないかと思ってしまった。 「あのさ。俺」 「どうした? やはり寒いか」 「そうじゃなくて…俺。ホントはクラトスと一緒にいたかったんだ」 唐突な一言に、クラトスは聞き返す。 「…何?」 「だから、俺があんたの後を追ってきた理由だよ」 ロイドの真意が読み取れずに、クラトスは「そうか」と返す。 次に出た言葉は、恐らく彼なりの照れ隠しだ。 「てっきり、お年玉でもねだろうとしているのかと思ったが」 「バッ…、そこまで子供じゃねーよ」 否定した後、ロイドは自分と相手の言葉の内容について考えることがあったのか、更に話を続けた。 「あんた、やっぱり知ってるんだ。お年玉」 「ん? ああ。そういえばシルヴァラントにはその習慣は無かったか」 ロイドの言い方の含みに、クラトスは自分の失言に気付いた。衰退世界の人間に言う言葉では無かった。たまたまロイドが知っていた為に、結果的には失言にはならなかったが。 お年玉。 シルヴァラントには無い、テセアラ独特の行事だ。 新しい年になると、子供の欲しい物を親がプレゼントするというもの。最近では、大抵お金で済ませられてしまう。 人々の生活に余裕の無い衰退世界、シルヴァラントにそんな贅沢な習慣がある訳が無い。 クラトスは元々テセアラとシルヴァラントの行き来が自由に出来た訳だし、それ以前に長い年月を生きているのだ。知っていて、当然だろう。 「お前はどうしたのだ? お年玉を知っていると言うことは、誰かに聞いたのか」 「いや。聞いた…っていうかさ、しいなに聞いたのは確かだよ。だけど、俺、聞く前にも知ってたんだ」 「……」 「俺が三歳の時にあんた、お年玉くれただろ?」 「……昔の記憶は無い、と言っていなかったか」 その問い掛け自体が、ロイドに対する肯定だととってもいいだろう。 クラトスは、幼いロイドにお年玉を渡したのだ。 「うーん。断片的なものだよ。あんたに会って思い出した部分もあるかも知れない」 お年玉、とかクリスマスプレゼントとか。 そういうシルヴァラントにはない贅沢な行事の話を聞いた時、羨ましい気持ちと同時に、しこりがあったのだ。 自分は、知っているような気がした。不思議な感覚。 その答えを、ようやく手に入れた。 「良かった」 「何がだ」 「ひとつ増えただろ。あんたとの思い出が」 息子の言葉に、クラトスは僅かに目を見開いた。 気付いているのかいないのか、当の本人は何事も無かったかのように歩き続ける。 「そりゃあ、今の、こうやって歩いて話をしているのも思い出のひとつだけど、やっぱ小さい頃の思い出ってのも欲しいし」 「…」 「それに、新しく思い出作ろうったって、そんなにもう時間無いもんな」 「ロイド」 物思いに沈んだような声は、いつになく寂しげだった。 悟っているのだ。この少年は。 戦いが終われば、クラトスが自分の傍を離れてしまうことを。 かけるべき言葉が見つからない。 だからと言って、デリス・カーラーンに行くという自分の決心を曲げる訳には行かなくて。 寂しげな後ろ姿を、ただ只管見守ることしか出来ない自分がもどかしかった。 「…ああっ!」 突然の声に、周りを歩いていた数人の人物が振り返った。 クラトスも少しではあるが、驚きを露わにした。 「見ろよ、あの時計」 言われて見上げてみれば、広場の隅に一本の柱が立っていて、いちばん上には時計が時を刻んでいた。 「もう――…来年……あ、いや、今年? になってる」 ロイドの言葉は言葉として成り立っていなかったが、それでも言おうとしていることは伝わった。 既に年が明けていたのだ。 「早いな。もう0時を過ぎたか」 「ひゃーっ。俺たち、何時間宴会してるんだよ」 「しかも、まだ終わりそうにないしな」 前を歩いていたロイドは足を止めると、クラトスの方を振り返る。 「どうした?」 「明けましておめでとう!」 面食らったクラトスに、先を促した。 「ホラ。年が明けたんだからさ、言うことあるだろ。あんたも」 「あ、ああ。明けまして、おめでとう」 悪戯っ子のような息子の表情に、先程の哀愁は漂っていない。 クラトスからは、安堵と共に僅かな笑みさえも零れた。 「今年もよろしくなっ、クラトス」 「そうだな。よろしく頼む」 過ごせる時間は長くは無いと、互いに知っているけれど。 それに気付かないフリをしながら、挨拶を交わす。 買い物をして、帰り道。 まだ、宿屋までの距離は長いけれど、話題は尽きないであろう。 ロイドの脳裏には、たくさんの思い出が浮かんできた。 本来なら時間と共に薄れていく筈の記憶が、父親との再会を機に蘇りつつある。 その喜びを噛み締めていた。 14年前のクリスマス・イヴの夜。 サンタクロースの格好をしたクラトスが、ロイドの傍にプレゼントを置きに来てくれた。 まさかロイドが目を覚ましているとは思わなかった上、即座に父親であると見破られたクラトスはいつになく慌てていた気がする。 彼が進んでそんな服を着るとは思えないから、アンナに無理矢理着せられたのだろうか? 逃亡生活の中、決して贅沢な旅では無かったけれど。 お年玉として、ロイドの欲しがっていたおもちゃを買ってきてくれた。 クラトスはどんな顔をして、子供用のおもちゃを買ったのだろう。 そう。話題は尽きない。 二人の『今年』は短い時間だろうけれど。 少しでもたくさんのことをしようとするように、彼らは歩み寄っていた。 クリスマスに書けなかったので、今度は親子小説です。 お年玉について多少(多々?)捏造。 執筆:咲崎 岬 様 |
|
フリーの小説を頂いてきてしまいました(奪取…?) 親子のそれぞれの表情や、感情が伝わってきて… 思わず想像して、ほくほくしまくりですvv 少しの時間しかそばに居られない二人が切なかったです。 サンタのお父さん万歳ですよっっ(>w<) 本当にありがとうございました!やさしい親子空間でお腹いっぱいですvvv 03.01.01 山本 のりまき |
